Weekend Theater 2009年9月号

このページに掲載されている記事の著作権は著者「安田 昇」にあります。
転載、転用はご自由ですが、著作権は放棄しておりません。
9-01(2009年9月4日掲載)

おはよ〜。

白露の頃。
朝晩に冷風が感じられますね。

さて、今週もいよいよ週末。
一週間お疲れ様でした。
忙しい中、一服の清涼剤。
ご存知、金曜ホラー劇場。
お楽しみください。


新人記者サエコ 2

「歌舞伎」

サエコは民主党本部のエントランスに研修の為、先輩番記者とつめていた。
処遇が注目の小沢代表代行と党本部で会談中とあって、驚くほどの数の取材記者がいた。
どうやら鳩山代表が出てきた。反射神経だけは動物並みのサエコは咄嗟に代表の前に
飛び出し、行く手を遮る形になった。歌舞伎役者のように手を前に突き出し、
片足けんけんで飛び出だしたサエコはやはり反射神経だけで思わず聞いた。
「ど、どうでしたかっ!」
手を突き出し、片足立ちのまま、まるで見得を切るように首を鳩山代表に向けながら、
歯を食いしばった。
ちょっと驚き、サエコの様子に失笑しそうになった鳩山代表は、
サエコを排除しようとする警護を抑えて落ち着いた声で言った。
「小沢氏に幹事長を依頼しました。」
「おお!」といいながら他の記者達はサエコの頭越しにマイクを差し出し、何か聞こうと声を出そうとしたが、
サエコの反射神経だけの質問と、サエコの良く通るが不快ではない声に押された。
「小沢さんはやるといいましたか?」
「はい。快く受けていただきました。」
ここぞとばかり他の記者が質問をしようとした瞬間、サエコの質問に周りが黙った。
「じゃ、小沢さんの役まわりは当然弁慶ですよね?ね?義経はだれです?義経は!」
凍った雰囲気の中、少し唇の端を笑いを堪えるように上げた鳩山氏が言った。
「それは勧進帳じゃ・・?」
9-02(2009年9月11日掲載)

おはよ〜。

朝晩に秋やってきてますね〜。

さて、今週もいよいよ週末。
一週間お疲れ様でした。
忙しい中、一服の清涼剤。
ご存知、金曜ホラー劇場。
お楽しみください。


新人記者サエコ3

「伝説のトレーダー」

JJモレガン社で伝説のトレーダー"F"と呼ばれた男が、
兜町で密かに話題になっていた。
「"F"が今度はチームを組むらしい。」
「"F"がトレーダーをリクルートしているらしい。」
「優秀なトレーダーを抱えている証券各社はヘッドハンティングに
戦々恐々としているらしい。」
サエコは例のバーでこの間の「ハゲタカ」に噂の真相を聞いてみる事にした。
「君は物怖じしないね。そんなことストレートに聞かれるのは初めてだな。」
ハゲタカは愉快そうに笑いながら携帯で何処かに電話をした。
「1時間でこの店に来る。私たちも移動しよう。」

恐ろしく煌く夜景が絵画のように窓枠へ切り取られた
高層ビルの最上階にある会員制のカフェバーの個室に現れた
”F"は、ぼさぼさの髪によれよれのチノパンツで、でっぷりした胸に「虚弱体質」
と白抜きで書かれた黒いTシャツを着ていた。
「よう。彼が伝説のトレーダー"F"だ。なんだか風采はアキバによくいる
オタク系だろ?」
"F"に声をかけたハゲタカは、サエコに向き直るとそう言い、サエコを紹介した。
「彼女が噂の記者、サエコ君だ。地味〜な感じだろ?でも結構パンチがきいてるんだ。」
サエコはいきなり本題を聞いてみた。
"F"は少しどぎまぎし、ハゲタカはうれしそうににやにやしながら「な?」と"F"に
ウインクした。
「優秀なトレーダーを集めているそうですが、誰とお会いになったんですか?」
"F"はハゲタカをちらと見て、ため息をつくように有名なトレーダーの名前をあげた。
「そうそうたる面々ですね。誰と契約を?」
矢継ぎ早のサエコの質問に、"F"も少し楽しんでいるようだった。
「だめだね。会う人間会う人間ピリッとしない。」
「それはどんな意味ですか?優秀なトレーダーではなかった?」
「ああ、みんなとれーだ。」
9-03(2009年9月18日掲載)

おはよ〜。

朝晩寒くなってきました。
ご自愛ください。

さて、今週もいよいよ週末。
一週間お疲れ様でした。
忙しい中、一服の清涼剤。
ご存知、金曜ホラー劇場。
お楽しみください。


新人記者サエコ4

「先輩」

サエコは先輩記者の翔子と居酒屋にいた。
「あたしはこういう所でウダ撒くようなオヤジ女じゃないからさ〜。
誤解しないでよね。」
少しお酒が回った翔子は確実にウダを撒いた後にそう言った。
「さあ!帰るわよ!お兄さん、お勘定〜。」
そう店員に叫んで翔子はサエコに向き直りながら言った。
「あんたとは先輩後輩と言うよりもう友達よね〜。」
察したサエコは言った。
「割り勘ですね。」
さすがという顔をして翔子が言った。
「そう。友達。ダチの割り勘、つまり『ダッチアカウント』ね。」
ちょっと意味が違う気がしたサエコだった。
9-04(2009年9月25日掲載)

おはよ〜。

秋晴れ!

さて、今週もいよいよ週末。
一週間お疲れ様でした。
忙しい中、一服の清涼剤。
ご存知、金曜ホラー劇場。
お楽しみください。


新人記者サエコ5

「あだ名」

サエコはハゲタカに呼ばれて例のバーカウンターに居た。
「サエコ君、今日はちょっと怖い人を紹介しよう。為替取引の
天才だが、決して表に出る事は無い人物、デビッド・チャップマンだ。
例のポンド危機の際、ソロスにアドバイスしたのが彼だ。
イングランド銀行の打つ手を先回りし、
びびるソロスに一歩も引かせなかった。おかげでソロスは
20億ドルの利益を上げ、イギリスはERM脱退の屈辱を味わった。
恐ろしく貪欲な彼についたあだ名が『グリーディ(貪欲)・デビッド』だ。
ほら、彼がやってきた。」
サエコが振り返ると、165センチほどの身長に、体重が100キロはあろうかと言う
巨体に載った眼鏡顔が、鏡餅のみかんほどに見えた。彼はにこりとして握手をさしだした。
手を取りながらサエコは自分の疑問をまっすぐに聞いた。
「サエコです。なぜあだ名が『デビット』何ですか?愛称なら短く『デーブ』じゃ・・。」
言いながらカウンター椅子に座れないほどの『デーブ』を見て、サエコは理由がわかった。
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